2007年8月26日日曜日

耳の快楽の復権

藤枝守という音楽家がいる。
彼の著書『〔増補〕響きの考古学』は
私の音楽観に強い影響を与えた本である。

私達が普段聴いている音楽は、
その大部分が「平均律」=西洋音階から作られている。
平均律とは、1オクターブを平均して12分割して全音と半音とに
振り分けた音階である。
この本では、平均律以前の古代ギリシャのピタゴラスによる
12音階の発明(ピタゴラス音律)による西洋音楽の発生と
それにつきまとう弱点の克服、
ルネサンス期において、ルート・3度・5度をハモらせることに
成功した純正調(純正律)へと変化をとげ、
その後バロック期に様々な音律が生み出されて
現在の平均律へと至る歴史がつづられている。

現在において平均律は自由な転調などの機能性を獲得したが、
正確に協和(ハモる)しないなどの弱点を抱えている。

この本の筆者は平均律の限界を超えた表現を、
純正調の再評価をふまえた
アメリカの現代音楽の新しい動きの紹介などで試みようとしている。
彼自身も純正調による作曲活動などにより知られ、
また、九州大学において教鞭を執っている。

私は、この本を読むまで純正律(純正調)という言葉を知っていたが、
その詳しい内容までは知らなかった。
この本を読んでいくにつれて、少年期に受けた音楽教育に疑問を
感じるようになり、私の知っている西洋音階(のピッチ)以外の
様々な音階を知るようになった。
と同時に、耳の感覚を研ぎ澄ますことの重要さを思い知らされた。

このブログを読んで、音楽のしくみの歴史に興味をもった人は
この本を読んでみたら面白いかな。

と書いていて、先日ドラマーで作曲家の富樫雅彦氏が亡くなったのを
思い出した。
67歳ははやいよなぁ、新藤兼人とまではいかなくても
80代ぐらいまでは生きていてほしかったと思う。
ベルイマンやアントニオーニとまではいかなくても、
優れた表現者には長生きして欲しいものです。

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